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「マルホランド・ドライブ」 !Silencio! No hay banda.'!

2005-08-21 01:00:34

テーマ:Mulholland Dr.

突如、リタが「Silencio,Silemcio」と声をあげはじめる。スペイン語だ。

¡Silencio!
No hay banda.'No hay orquesta.

静かに!バンドはいないオーケストラもいない

「It's okay ,it's okay.大丈夫、大丈夫」と驚きながらもリタに言い聞かせるベティ。

「It's not okay.大丈夫じゃない」と初めてベティを否定するリタ。

「どうしたの?」ベティ。「一緒に行って欲しいの。」答えるリタ。午前二時だ。

「今すぐに」。リタは強調する。

町に出る二人。リタはブロンドのウィッグをつけて黒のドレス。ベティは、赤の半袖、黒のスカート。タクシーを拾って乗り込む。もはや二人は同じ顔になっている。リタの表情もメイクもベティにそっくりだ。町の灯りがすべて滲んでいて、幻想場面であることが示される。いよいよ虚実の境目だ。
        MD2
さまざまな町を通過し、幾つもの交差点を越え、風吹きすさぶ路地の奥、クラブ・シレンシオにたどり着く。タクシーを降り、ぴったりより添って劇場に入っていく二人。

二人を追うカメラ。古めかしい劇場だ。客席には二十人ぐらいまばらに観客が座っている。カーテンが垂れ下がった舞台には、手品師の男がいて、二人が入ってくると、大声で「No hay banda.'No hay orquesta.」と叫びはじめる。リタの言った言葉の通りだ。英語とフランス語でも同じことを言う。

「オーケストラはいない。すべては録音されたものだ」、という不思議なコンサートだ。クラリネットが聞こえ、ミュートのトロンボーン、ミュート付きのトランペットが聞かれる。手を取りあって舞台を見つめるリタとベティ。ブロンドの髪は同じだが、赤と黒の色がくっきり分かれて見える。

「It is an illusion!」 この言葉を聞いて伏し目になる二人。舞台の上のバルコニーには不気味な青い髪の女が見える。手品師が手を高く上げ、落雷のような音がして、舞台が青く光る。突然、がくがくと震え出すベティ。幸福に溢れていたベティの表情は一変する。抱きしめるリタ。

青い煙が立ちのぼり、舞台のマイクが青白く光る。客席も青い光に包まれ、恐怖の表情を見せるベティ。舞台の上のバルコニーの青い髪の女は微動もせずにこちらを見据えている。

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「マルホランド・ドライブ」 ベティはリタになりたい

2005-08-20 21:07:34

テーマ:Mulholland Dr.

ベッドに横たわる腐乱死体は誰のものなのか?褐色に見える髪の色で映画を見ている者は、記憶喪失者=リタ=腐乱死体なのだろうか、とあり得ないことも受け入れる気持ちになっている。

なにが現実でなにが幻想なのか不明瞭になる。リタは激しく動揺し、褐色の髪を自分で切ろうとする。「気持ち、わかるわ」と優しくなだめるベティ。私が切ってあげる、と言う。このとき、はさみを青い本の上に置くのが印象に残る。タイトルは「TOUT PARIS」 。さまざまなメイク用品やウィッグが映し出され、鏡にベティの顔が映る。並んで映し出されるリタの髪はベティと同じ短いブロンド。満足そうに笑うベティ。
        MD
見ている側は、軽くショックを受ける。しかし、そうか、そうだったのか、と、なにかを理解した気持ちがする。何もわかっていないのに。心の底で感じるこの理解は正しい。リタをベティは独占したいのだ。俺にもよくわかる。愛するが故の独占の極限は、その人になる、ということだ。

俺も、ある女を好きなあまり、その女自身になりたい、と心から願ったことがある。自分の子供が可愛いのも、自分自身だからだ。「愛」とは言うものの、独占欲、支配欲を伴う「愛欲」は、自己愛の変形に過ぎない。この「愛欲」の裏返しは「嫉妬」である。嫉妬と猜疑心。人の心を蝕み、責め苛む。

自分の子供に対するように優しくリタを招くベティ。満足げな表情を浮かべている。リタは裸でベッドに横たわる。リタはベティに感謝の言葉を述べる。

'Thank you, Bety'            'It's nothing'

'Thank you for your everything'      'your welcome'

心から満足げなベティ。尽くした配慮や愛情を受け止めてもらうほど嬉しいことはない。

'Good night  sweet  Bety '     'Good night'

寂しい言葉だ。そう言いながら、口づけをかわし身体をまさぐる二人。悲痛な鎮魂の音楽が弦楽アンサンブルで盛り上がる。

'I want be with you' 'i'm loving with you' 'I'm loving with you'というベティ。答えないリタ。美しくも悲しい場面だ。

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